20110325

未公開映画レビュー 「ON AIR オンエア 脳・内・感・染」



ON AIR オンエア 脳・内・感・染 (2008 カナダ)


小さな田舎町を襲った謎のウィルス感染の恐怖を描いた、カナダのホラー映画。

監督はブルース・マクドナルドという、80年代から一貫してカナダで活動しているベテランの人。

89年には『ロードキル』という、日本でも劇場公開された映画を25万ドルで製作したりと、低予算で映画を撮るのが得意な人みたいで。07年にはエレン・ペイジ主演の『The Tracey Fragments』で、ベルリン映画祭マンフレッド・ザルツゲーバー賞(革新的な作品に与えられる賞だそう)を受賞している。

本作は、この監督にしては結構金をかけているみたいだけど、それでも予算は150万ドル。主要な登場人物はDJのグラント、プロデューサーのシドニー、電話オペレーターのローレルの3人だけ。田舎のローカルラジオ局のブース一つだけで物語が進むシチュエーションモノなのだけど、これが舞台の特色をよく生かした脚本になっていて、とても面白かった。

主人公のグラント・マギー。ちょい悪オヤジっぽい

まず「多くの人が集まって暴徒化している」という情報がラジオ局に入る。最初は不法な処方箋を出す医者に対する抗議活動ではないかという話だったんだけど、次第に爆発が起きたという情報が入ったり、軍用車が出動したというレポートがあったり…。

また、BBCと生中継を繋いで「現場のラジオ局」として状況を聞かれるんだけど、あっちでは分離主義者のテロという話になっていて、お互いに持っている情報が全く違ったりとか。

“何かが起こっている、でも何が起こっているのか情報が錯綜してよく分からない”

そういった緊急事態下でのマスコミの混乱模様がよく描かれている。また、直接的な映像を一切見せずに、ラジオ局に伝わってくる断片的な情報を聞かせるだけで「街中が大混乱している」という緊迫した状況を上手く伝えている。これはインディーズならではの監督の技術だと思う。

あらすじだけ見ると単純なB級ゾンビ・ホラーっぽいけど、ホラーというより、前半はパニック・サスペンスとしてかなり上質で面白い。

そして後半になってようやく情報が集まってきて、人々の狂暴化の原因がウイルスによるものだということ、そしてそのウイルスは「言葉」によって感染するということが分かってくるのだけど…。

ここから話は一気にオカルトちっくな方向に傾いてくる。ようやく話が本線に乗ったと言えばそうなのだけど。個人的には前半のテイストが好きだったので「んん?」という感じ。

愛は地球を救う

「言葉によって感染する」というメカニズムもふわっとしていて、2度見直しても感染の条件がよく理解できないし、ラストで主人公が発見する“感染を治す方法”も「ええ、そんなことで?」とやや拍子抜け。

そんなよく煮詰められていない設定なもんだから、監督も話を上手くまとめられなかったみたいで、ラストは「もう俺にもよく分かんねーやー」って放り投げちゃった感がありありと。まあでも、このラストに関しては「所詮B級低予算なんだから、あんまりマジになって見るなよ」という監督の皮肉めいたメッセージでもある気がして、嫌いじゃないけどね。

放り投げちゃったの図

後半はちょっとアレだけど、トータルで見ればなかなか見応えのある良作だった。最近だと『フローズン』なんかも、この作品と同じくアイデア一個ゴリ押しのB級シチュエーションスリラーだったけど、少なくともあっちが劇場公開されて、こっちが未公開というのはちょっと勿体ない気がするな。



  

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