20110405

未公開映画レビュー 「友よその罪を葬れ」



友よその罪を葬れ (2009 スペイン)


法学部次期教授の最有力候補ヴィセンテは、同僚の老教授フェルナンドがその妻を殺す現場を偶然目撃してしまう。だが、高潔な人柄で、彼にとって師であり父親のようなフェルナンドの犯罪を警察には通報できない。暗黙の共犯者となってしまったヴィセンテは、フェルナンドの行為を許すこともできず苦悩する。沈黙と隠蔽で終わるはずの犯罪は新たな殺人事件へと発展していく…。

ストーリーとしてはあちがちだけど、地味ながら「これぞサスペンス!」っていう手堅い作りになっていてとても面白かった。

正直前半は、父親のように慕ってきた老教授の殺人を主人公が目撃してウジウジと思い悩んでいるところが延々と描かれて、スローな展開にやや退屈してしまうんだけど、中盤で老教授が犯す“第2の殺人”から一気に惹き込まれる。



最初の殺人は“自分のため”だったんだけど、ここで老教授は“主人公のため”に殺人を犯すんだよね。しかもそのとどめを、主人公が請け負ってしまう。でも、それに老教授は気付いてないっていう…。それまで単なる「目撃者」だった主人公が「加害者」とも「共犯者」とも言い切れない微妙な立場に変わることで、ありがちなサスペンスから一歩進んで、物語に深みが加わっている。

そして、この老教授を演じたエミリオ・グティエレス・カバという人が物凄い良い味を出している! 正直、この作品が面白いのはこの人のお陰と言っても過言じゃない。

日本で見れる出演作は「ウェルカム!ヘヴン」ぐらいしかないけど、IMDbの情報を見ると、スペインのアカデミー賞ことゴヤ賞で助演男優賞を2回獲ってる人だそうで。スペインでは有名な名脇役なんだろう。本当にいい演技をしていた。

そこらの人が演じたら単なる「自分勝手な殺人犯」になってしまいそうな役どころを、「弱さのあまり殺人を犯してしまった哀れな老人」として、見る人の同情を呼ぶ演技をしている。それによって、殺人を目撃しても通報することができない主人公に感情移入が出来るし、ラストにも感動できる。



難を言えば、せっかく主人公の職業を法学者にしてるんだから、法学者ならではの展開というのを見せて欲しかった…っていうのが若干あるかな。

法学者にしたのは、倫理観に言及するセリフを冒頭で主人公に言わせたかったからだろうけど…。それ以外のシーンでは、主人公が法学者である必然性が感じられなかったのが残念。別に普通のサラリーマンでもいいくらいだった。自分の感情と法の論理の間で葛藤する場面とか、もっとそういうところを前面に押し出しても良かった気がするな。



それにしてもこの作品、ネットで検索してもほとんどレビューが上がっていない。結構いい作品なのに、なんでこんなに誰も見てないのか…。

邦題の「友よその罪を葬れ」も硬派で内容にも合っていてなかなかいいタイトルだけど、どうせなら原題の「Good Man」をそのまま「善人」と訳して、一見『悪人』のパクリっぽく見せればもっと手に取る人が増えたんじゃないかなー、と要らんお世話を焼いてみたり。



  

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