20110905

未公開映画レビュー 「スピーシー・オブ・コブラ」

スピーシー・オブ・コブラ (2010 インド)



デヴィッド・リンチの娘ジェニファー・リンチ監督3作目のクリーチャー・ホラー。原題は『Hisss』。こんな単語あんの?と思ったら、ヘビが威嚇する時に発する「シャー」っていう音を表した擬音だそうで。

去年、ジェニファー・リンチがボリウッド映画の監督に!というニュースを聞いた時は驚いたけれど、それがこんなに早く日本でDVD発売されるとは思わなかった。インド映画は日本ではなかなか発売されないし、何よりもこの作品、批評家からボロクソに叩かれていたから…。



ストーリーは、人に姿を変えることが出来るコブラの女神『ナギン』という、インドの実在の神話を基にしているらしい。日本人にはイマイチよく分からない題材だけど、物語の冒頭でこの神話の説明がさらっとあって、ナギンは不老不死の力がある石を持っているということ、そのため古来から死を恐れる人々によって捕獲を試みられてきたことが描かれる。一応、どこまで本当の神話なのか『Naagin』で検索しようとしたけど、googleが「もしかしてNakagin(中銀)ではないですか?」と聞きまくってくるので、面倒くさくなってやめてしまった。

この映画では、不老不死の力を手に入れようとナギンをおびき出す白人のおっさん、おっさんに捕らえられた恋人を助けるため人間に姿を変え殺人を繰り返すナギン、その連続殺人を追う刑事、3人の視点が絡み合う構成になっている。

主に批評家からは脚本が稚拙だと叩かれているけど、見てみて納得というか…。前作『サベイランス』では、粗はあるけどちゃんと一本芯の通った脚本を書けていたジェニファーだったのに、どうしちゃったの?という感じ。

白人のおっさんにナイフで脅され、仕方なくコブラを捕獲する現地ガイド



捕獲したあと「これでおしまいだ」と言って銃を取り出し、いきなり自殺。



その銃で抵抗しろよ!



他にも申し訳程度に挿入されるミュージカルシーンとか、『スラムドッグ・ミリオネア』の冒頭シーンを模倣したような街中の追いかけっことか…。単体で見ると悪くないシーンなんだけど、「こういうのがボリウッド映画なんでしょ?」って感じで取って付けた感がありありと見て取れて、物凄い不自然。

CG予算も相当ケチッたなぁという感じのクオリティ。無名のB級映画やしがないTV映画程度ならこのレベルの作品は珍しくないけど、監督にも俳優にもそこそこ実績のある人間を配してこれはちょっと…。



コブラの女神ナギンを演じるのはインドの人気若手女優で、ジャッキー・チェンの『MYTH 神話』にもヒロインとして出演しているマリカ・シェラワット。抜群のプロポーションのヌードを披露しまくりで、お色気要素を一手に担っている。ちなみに台詞は最初から最後まで、一言もない。



連続殺人を追う刑事には『スラムドッグ・ミリオネア』でも刑事を演じたイルファーン・カーン。今後もアン・リーの新作やスパイダーマンの新シリーズに出演が決まってるなど、インドのみならず今や世界的に引っ張りだこの人気俳優。



白人のおっさんを演じるのは、ジェフ・ドーセットという無名のアメリカ人。『ドクター・ドリトル』や『スプラッシュ』にも端役で出てるそうだけど、見覚えはなし。役者としては無名だが、正直このおっさんのキャラがこの作品の中で群を抜いて強烈である。



正直この3人の中では、イルファーン・カーンの役が要らなかったんじゃ…という気が。女神コブラと狂ったおっさんのバトルを描いた正統派B級映画という風に描いた方が面白くなったんじゃないかなぁ。イルファーンがなまじシリアスな良い演技を見せちゃってるお陰で、B級にしたいのか真面目にやりたいのかよく分からない、どっちつかずな状態になってるように思う。

しかも、どういう捜査を経て刑事は真相に辿り着くのかなーなんて思って見ていたら、最終的に死んだ義母が夢に出てきて全ての真相を教えてくれるという元も子もない展開だからね。

ニューデリーTVの批評家いわく「この映画の最大のミステリーは、なぜイルファーン・カーンが出演契約にサインしてしまったのかということだ」。自分も全く同意である。



  

20110510

未公開映画レビュー 「ラスト7」



ラスト7 (2010 イギリス)

謎の人類消滅から生き残った7人。世界の終末とともに描かれる、衝撃の近未来アクションスリラー!ウィリアムが目を覚ますと、ロンドンの街から人が消えていた。大通りにもビルの中にも、誰ひとり存在しない。当てもなく彷徨うウィリアムは6人の生存者と出会う。しかし誰もが自分が何者なのか、なぜ人々が消えてしまったのか思い出すことができない。一体、7人の身に、世界に何が起こったのか…。(「Oricon」データベースより)


『28日後…』とか『地球最後の男』とか、終末系SFの要素を適当に詰め込んだ類似作品かな?と思いきや…。中身は結構オリジナリティ溢れるぶっ飛んだ作品で、個人的にはそこそこ楽しめた。

ただ、この作品を手に取る人って、大抵はそういった終末系SFを期待している人だろうから、あまりお勧めはできないかなぁ。そういう人たちにとってこの作品のオチは「なんじゃそりゃ!」って感じだろうし。



そもそも前述の2作品ような「誰もいなくなった世界を生き抜く」みたいなサバイバル要素は殆どなくて、この作品は「なぜこうなったのか」という原因を探ることにストーリーの比重を置いている。なので、まず絵的な見栄えは全然しない。終始、誰もいなくなったロンドンを、あーでもないこーでもないと言いながら登場人物7人が当てもなく彷徨う単調な映像が続く。

ただその合間合間に、7人の過去のフラッシュバックが挿入されて、そこで登場人物たちの関係性が判明したり、この状況の原因がちょっとずつ明かされていく…という構成になっている。この辺りは若干『LOST』の影響も見て取れる。

ただ、LOSTの悪い面にも影響を受けてしまったようで…。とにかく、この作品の一番ダメなところとして「大風呂敷を広げすぎ」!

結局、評価の肝は「オチを許せるかどうか」の1点に懸かってくると思うんだけど…。個人的には、そんなに悪いオチではないと思う。ただ、最初に風呂敷を広げすぎたことで、そのオチを自ら台無しにしてしまっているように思えて仕方ない。



見てる側とすれば、ただでさえ「700万人の人間が住んでいたロンドンから人が消えるわけだから、よっぽどの原因があるに違いない」と期待しているわけで。

そこに加えて、冒頭で思わせぶりにキリストの磔刑の映像を挟んだりして、見る人に「これは黙示録を描いた作品なのか?」と思わせたり…。かと思えば、序盤では国家的陰謀が絡んだ事件の存在を匂わせたり…。とにかく「これから壮大な物語が始まりますよ」と言わんばかりのフリを随所に入れてくる。自分でハードルを上げちゃってる状態。で、低予算作品でそんな壮大な話を作れるわけもなく、大抵の人はオチで「なんだ、そんだけかよ」と肩透かしを食らうと。

冷静になって考えてみるとちゃんと伏線もあるし、それなりに練られていて、そんなに悪くはない脚本だと思うんだけど、最初に広げた大風呂敷のせいで「がっかり感」が半端ないのだ。



更に、この作品の公式サイトにはこういうあらすじが載っている。

そう遠くない未来、ロンドンは危機に直面していた。機能しない政治、急速に増える人口、気候の変動…。もはやそれらの問題を解決することは不可能で、都市は崩壊した。人口は700万人から7人へと減り、残された彼らは新しい社会の形成のため、協力の必要に迫られていた─。


ここで書かれているようなことは、一切本編中で起こらない。人が消えたのは政治のせいでも、人口のせいでも、気候のせいでもないし、残された7人が新たな社会を形成するなんていう描写はまったくない。

なんで公式サイトがこういう嘘八百を書くのか、理解に苦しむところだが…。よく小学校の頃、すぐばれる嘘をついてわざわざ自分の首を締める奴がいたけど、この映画を作った人間は多分そのタイプなんだろう。



繰り返すけど、こういう無駄な大風呂敷さえ広げなければ、悪くない作品だったと思う。

例えば、ロンドンから人が消えたとかそんな大げさな話にせずに、一つの建物の中だけで話が進行する密室劇とかにした方が良かったんじゃないかな。その方がオチへの繋がりとしては自然だし。そもそも最初、外にいる意味が分からないし。

ランニングタイムが80分台(エンドロールを抜くと70分台)と、短く収めているところは良かった。編集の人だけは、ちゃんとこの作品の限界をわきまえていたようだ。



  

20110425

未公開映画レビュー 「GAMERS ゲーマーズ」



GAMERS ゲーマーズ (2009 ロシア)


本国ロシアで大ヒットを記録したSFアクション大作!ゲームのサイバー・スポーツ大会。勝者には賞品として特別なゲームが配られる。しかし、これはただのゲームではなくプレーヤーがゲーム内に登場するキャラクターの能力を吸収できる特殊なシステムが備えられていた。ゲームのプロデューサーは優秀なゲーマーたちを集め暗殺集団に仕立て上げようとしていた。事態に気づいたゲーマーたちは、人生を取り戻す戦いに立ち上がるが…。(「Oricon」データベースより)

また日本の配給会社が、関係ない作品をジェラルド・バトラーの『ゲーマー』と関連付けて…と思ってたら、本国ロシアの方でも似てるのを自覚してたみたいで。ロシアのウィキペディアを見てみると、最初『Gamers. In Search of the Target』というタイトルだったけど、ジェラルド・バトラーのと被るから『The Game』に変更した、という記述がある。

せっかく被らないように変えたのに、日本の配給会社に勝手に戻されてしまってとても不憫。



内容はと言うと、もうちょっとSF色が濃い作品なのかなーと思って見たら、ゴリゴリのアクション映画でちょっと意表を突かれた。

SFと言えるのは「キャラクターの能力を吸収できる特殊なゲームディスク」ここだけで、開始10分で主人公たちが能力を手に入れてからは、近未来的なものは一切出てこない。TSUTAYAでもGEOでもSFにカテゴライズされてるけど、SFを期待しているとがっかりするので注意。

ちなみに、その特殊なディスクについても「なぜゲームキャラの能力が手に入るのか」とか「どういうメカニズムになっているのか」とかその辺の説明は一切なし。普通、いきなり超人的な戦闘能力を手に入れたら「なんで!?どうなってんの!?」とパニックに陥りそうなもんだけど…。主人公たちもそういった疑問を一切持つことなく、すぐさま能力を使いこなしている。そこらへんを突っ込むのは野暮、ということらしい。ここまで堂々と考証を放棄されると、むしろ気持ちがいい。



なのでSFファンにはあまりお勧め出来ないんだけど、逆に言えばアクション映画としてはかなりクオリティが高い。「ゲームキャラの能力を手に入れられる」という便利な設定があるもんだから、ドンパチあり、肉弾戦あり、カーアクションありとアクション映画としてはかなり贅沢な作りになっている。ナヨナヨしたゲームオタクたちが、屈強なロシアンマフィアをバッタバタと倒していく爽快感もあって、アクション映画が苦手な自分でもなかなか楽しく見ることが出来た。

また、主人公たちが悪人をなぎ倒していくだけの単調な作品にもならず、後半からは主人公たちの間で仲間割れが起こって敵同士になり…みたいな、ベタだけど飽きさせないストーリー展開になっていて。2時間越えと未公開映画としては結構なボリュームだけど、それに見合うだけのアクションシーンの濃厚さがあるので長さはあまり感じなかったかな。

後半に突然挿入される、「とりあえず入れとかなきゃ」と無理やり捻じ込んだ感がプンプン漂うベッドシーンとか、明らかに無駄なシーンもあるけどね…。

無駄なシーン

この作品を見て思ったのが「ロシアにもこういうゲームオタクっているんだなぁ」ということ。

まぁそりゃいるんだろうけど、あんまりロシア人にそういうイメージがない。なんか勤勉学生が多い印象がある。罪と罰のイメージかな。あまりゲームがないというか、マトリョーシカしか玩具がないというか…(酷い偏見)。
これを機に改めよう。



  

20110411

facebook

これから近況とかはfacebookの方に書いていこうかなーと思います。

http://www.facebook.com/tatsuya.aoyagi/

20110409

未公開映画レビュー 「タイタニック2012」



タイタニック2012 (2010 アメリカ)


震災の影響で、公開を延期する映画が次々と出ている。中国の『唐山大地震』なんかはまぁ仕方ないかと思う部分もあるのだが、『世界侵略:ロサンゼルス決戦』などは、今回の震災とは何の関係もないだろうに。自然災害じゃなくて宇宙人が攻めてくる映画なんだから。楽しみにしていただけにとても残念。

そんな中、もろに津波を描いているにも関わらず、何事もなかったかのように予定通りに発売されたのがこの『タイタニック2012』。

タイタニック号沈没から100年後の2012年。悲劇が起きた同じ日に、タイタニック2号と名付けられた豪華客船が大西洋へと旅立った。設計士のヘイデンが、パーティーの席で悲運の歴史を塗り替える偉大なる航海を称え、船内は盛り上がりをみせていた。その頃、カナダ北部で巨大な氷河の崩落が観測される。その影響で史上最大の大津波が巨大な氷塊と共に大西洋に向かっていた。極寒の海原で、悲劇は再び繰り返されるのか…。(「Oricon」データベースより)



パクリ映画で有名なアメリカの製作会社The Asylumの新作で、原題はズバリ『Titanic 2』。ジェームズ・キャメロンが怒り出しそうなタイトルだけど、作り手側としては「映画タイタニックの続編という意味ではなく、タイタニック2号という船を描いた映画なのでTitanic 2なんですよ」という言い分らしい。上手いこと考えたもんだ。ただ、案の定アメリカではタイタニックファンから総叩きに遭っていて、IMDbでは1.9点という驚異の低スコアを叩き出している。

内容はと言うと…。まぁ、1.9という点数に違わない、どうしようもない感じの作品だった。

どうせここまで確信犯的に便乗するのであれば、いっそ開き直ってオマージュに徹するか、もしくは好き放題やって全然違う話にしちゃうか、どっちかに振り切っちゃえばいいと思うんだけど…。なんか変に真面目に物語を進めようとするんだよなぁ。映画自体は完全にふざけてるのに、脚本ではあまりふざけないんだよね。



冒頭、主人公が軽快なPOPミュージックに乗せて美女4人をはべらせながら登場するところなんかは、本家のディカプリオとのギャップに笑ってしまうし、「今回は氷山のあるところには行かないからタイタニックの二の舞にはならないよHAHAHA」って余裕こいてたら津波で氷山の方がやって来ました、っていうのもオマージュ映画としては一捻り効いてて面白い。

ただ、船が沈没し始めてから、変にシリアス方向にスイッチが入っちゃってつまらなくなる。CGのクオリティが恐ろしく低いのを突っ込むのは野暮としても、どこかで見たことがあるようなパニック描写ばかりで、ひたすら本家タイタニックの劣化コピーを見せられてる気分に。

しかも、あまり遠くまで見えちゃうとCGにお金がかかると言わんばかりに、真っ暗のシーンがやたら多い。まぁリアルと言えばリアルだけどさ…。とりあえず音で迫力を伝えようとしてるんだけど、暗すぎて登場人物が何をやってるのかが全然分からない。



ラストも話をまとめる気ゼロだし…。
まぁ、よっぽどのZ級映画マニアでもない限り、見なくてもいいかな、これは。

ただ「タイタニックなんて女向けのクソ映画だろw」と言ってる人たちに見せる教材としてはいいかもしれない。あの映画がどれだけ完成度の高い作品か、これを見れば分かるに違いない。